寄稿
模範稽古を拝見して
第3回 剣道祭 実行委員会:拝見小子
剣道の奥深さを、参加者全員に伝えられるアイデアはないか?
今年の実行委員会は、冒頭から難題にぶち当たった。
そもそも、簡単に説明や体現できるのならば、「奥深さ」など無いに等しい。筆者を含めすべての委員は、剣道の奥深さも知っているし伝えたいとも願っているが、その具体的な方策も浮かばないし体現できる自信もない。
悩んだ末、お叱りを受けることを覚悟し、「津田会長の模範稽古しか思い当たりません。」と発言した。他の委員は、少なからず困惑したに違いない。
しかし心配は束の間、こんな非礼なお願いにも、意に介されることなく快諾頂き、嬉しくも実現の運びとなった。懸り手も、時下の福山地区で最も心技体の充実した二名の先生を、会長自らご指名頂き、名実ともに「模範稽古」足り得る条件が揃った。
元立ち 津田正臣教士 八段 (古希:70歳) 福山地区連.市連会長・県剣連副会長 等
懸り手 谷川光弘教士 七段 (54歳) 県剣連 強化委員
村上裕正教士 七段 (53歳) 県剣連 普及指導委員
蹲踞。気の充実が見える。村上教士の先の気に対し、津田会長は静で対峙の様子。しかし、包み込むような柔らかいものではなく、侵し難い結界を感じる。
立ち上がり、村上教士が先を掛けじわじわと間詰め、津田会長がわずかに前に出て迎える。触刃の間合いで剣先の攻防。やはり、津田会長は誘い出す気は無い様だ。「この構えを破ってこい!」と言わんばかりに、村上教士を一足一刀の間合いに入らせない。
剣道は、気剣体の一致が重要だが、最も大切で常にベースにしておくべきが「気」であることを示された攻防の妙であった。
初太刀、裂帛の気合いが増し、村上教士が捨身の攻めから十分に溜めを作って面へ跳ぶ。津田会長、前捌きでの対応を破られ、やや差し込まれたものの、危なげなく胴へ返す。有効打ならずとも村上教士の初太刀は、技前から残心まで丁寧で気剣体の調和が美しかった。まさに、懸り手の模範となる完璧な打ちだった。その後も、村上教士の捨身の攻めを、津田会長が圧し、制し、応じ返す展開。時折、弟子の成長を試すかのような担ぎ小手を見せるも、そこは実力者の村上教士、決して手元を浮かせなかった。
筆者としては、懸り手の在り方・元立ちの使命を訓えて頂いた模範稽古だったと感じた。懸り手は、全身全霊持てるものを全て出し尽くす。虚を捨て実のみで懸る。元立ちは、常にそれに応えるだけの、誠実で正しい稽古をすべきだと痛感した。
稽古後、村上先生は「久しぶりに、本当の無心を引き出してもらった。」と語った。
懸り手は代わって谷川教士、静かな立ち上がり。しかしながら前の立会とは一転し、共に先の気が窺い知れる。津田会長は、歩合(互格)稽古を許されたようだ。
一般に、懸り手が上手の先生に歩合を仕掛けることは、無礼とされ断じてタブーである。
「勝負」は、許されても初一本のみ。待ち剣や後打ち、フェイントなどは以ての外である。初耳の人は、これを機に今後の精進の糧として頂きたい。
ともあれ、四十年近く師弟関係の強い絆が、互いの稽古を崇高な演武へと昇華させた。
剛の谷川教士、体躯に勝り大きく端正に構え、剣先もほとんど動かさない。一方、表裏・上下と剣をまとわせ、滑らかな足捌きの津田会長、円熟の柔で対する。交刃の間で熾烈な攻防、練り合い。前半は、谷川教士が攻勢に出る。外連味のない真っ直ぐな攻めで、一足一刀の間に入る刹那、鋭く技を出す。或いは、一瞬溜めて攻め返しを誘って面へ伸びる。シンプルながら重厚な攻めだ。
津田会長は、これらを全く動じることなく前突きで制し、擦り上げ、受け流しては萎やし、面へ胴へ小手へと返す。玄妙な技の体現。修行の深さに感嘆する。
中盤を過ぎたころ、徐々に攻勢に転じた津田会長。攻防・打ち合いの流れから、谷川教士が下攻め、面へ伸びる。しかし、その攻めに擦り込むように乗った津田会長が、一瞬早く鮮やかに面を打ち抜いた。瞬間、会場が大きくどよめいた。
この時、古希を召し十五歳もの年齢差を、観衆の誰が意識したであろうか。
模範稽古後、面を取られた津田会長に、息の乱れはなかった。
最後に、津田先生を始め谷川先生・村上先生には、県下でも比類のない素晴らしい模範稽古をご披露頂き、実行委員会を代表し、衷心より敬意を表し感謝申し上げます。
おかげをもちまして、第3回 剣道祭も成功裏に終え、役員・審判を含む参加者一同、思い出深い経験となりました。今後の修練と指導に活かすことをお誓いし、お礼とさせて頂きます。
尚、筆者としましては、駄文・乱文に加え長文となり、平にご容赦願います。
また、文中に失礼や不適切な表現があるかとも思いますが、筆者の理解不足・未熟さゆえの愚行とご寛容にお取り計らい下さい。 |